「共同受信ミッション」の版間の差分
細編集の要約なし |
細 (→アナログ温度情報(断続信号)) |
||
109行目: | 109行目: | ||
宇宙機が遠く離れた後もこの信号の変化さえ捉えることができれば、その温度のおおよその値を知ることができる。 | 宇宙機が遠く離れた後もこの信号の変化さえ捉えることができれば、その温度のおおよその値を知ることができる。 | ||
この断続信号は、下図に示すように周期が3秒間で一定で、バッテリーの温度(''T'' = 0x00~0xFF)に応じてデューティ比が変化するような信号である。 | この断続信号は、下図に示すように周期が3秒間で一定で、バッテリーの温度(''T'' = 0x00~0xFF)に応じてデューティ比が変化するような信号である。 | ||
[[ファイル:BeaconFormat.png| | [[ファイル:BeaconFormat.png|550px|thumb|none|アナログ温度情報(断続信号)の波形]] | ||
==受信の報告== | ==受信の報告== |
2014年11月10日 (月) 08:51時点における版
ARTSATプロジェクトの第二の宇宙機「ARTSAT2:DESPATCH」のメインミッションである「共同受信ミッション」においては、 世界各地のアマチュア無線家に受信協力をいただき、DESPATCHが深宇宙から送信したデータの復元に挑戦します。 本ページでは、この共同受信ミッションの内容とそれに参加する方法を記載します。 深宇宙からの電波受信というこの稀有なイベントに、ぜひご参加下さい。
なお、DESPATCHの通信系などサブシステムの仕様および投入軌道については、メインページに詳細を掲載します。
概要
「ARTSAT2:DESPATCH」は、ARTSATプロジェクトの手がける第二の宇宙機である。 大きさ約50cm立方、重量約32kgのこの宇宙機は、2014年11月30日(日本時間)に打ち上げ予定のJAXA H-ⅡAロケットにより地球脱出軌道に投入され、投入から24時間足らずで月面距離(38万km)に到達し、およそ1週間で250万kmの彼方に到達する。
DESPATCHはこの1週間、430MHz帯の電波により、宇宙機の健康状態を示すハウスキーピングデータ、および搭載センサーのデータから軌道上で制作された「宇宙生成詩」を送信する。 しかし、DESPATCHは回転した状態で地球脱出軌道に投入されるため、地上で受信できるのは、宇宙機の回転によりフェージングの生じた極めて弱い信号だけであると考えられる。
そこで、ARTSATプロジェクトチームでは、DESPATCHのメインミッションである「共同受信ミッション」において、世界各地のアマチュア無線家のみなさまにこの非常に弱い電波の受信協力をお願いしたい。 この共同受信ミッションでは、単独の大型アンテナを使用するのではなく、多数のアマチュア無線家が受信したデータの数々をインターネットを使って一ヶ所に集めて再結合することで、極めて遠方からのデータを復元する「協調ダイバーシティ通信」の実験を行う。 このような実験によって、アマチュア無線家が有する比較的小型のアンテナでも、それらを複数集めることで巨大なパラボラアンテナに匹敵するような微弱電波の受信が可能になるのかどうかを検証する。
共同受信ミッションの実施期間
DESPATCHは2014年11月30日 13時24分48秒(日本標準時)にJAXA H-ⅡAロケット26号機により打ち上げられ、この打ち上げからおよそ2時間後に軌道投入がなされる予定である。
DESPATCHが電波を送信するのは、この軌道投入直後から一週間のみである。 この一週間というミッション期間を、下の表のようにDESPATCHと地球との距離応じて3つのフェーズに分割し、「ハウスキーピングデータ」「宇宙生成詩」「宇宙機の温度に応じた断続信号」という3種類のデータを地上で受信する。 共同受信実験の対象はフェーズ2の「宇宙生成詩」であるが、フェーズ1またはフェーズ3における受信協力・受信報告も歓迎する。
フェーズ | 地球からの距離 | 地上で受信されるデータ |
---|---|---|
フェーズ1 | ~17万km | モールス信号によるハウスキーピングデータ |
フェーズ2 | 17万~160万km | 独自符号による宇宙生成詩 |
フェーズ3 | 160万km~ | 断続信号による宇宙機の温度情報 |
下の図には、この3つのフェーズの期間を色で、世界の各地域における可視時間を黒い横棒で示している。
共同受信ミッションの実施期間であるフェーズ2は、日本における1回目の可視時間の後半から5回目の可視時間の最初までの約99時間である。
受信データ
DESPATCHには送信出力7W、送信周波数430MHz帯の通信機が搭載されており、地上で受信されるデータはすべてこの通信機によって送信されたものである。 この通信機のアンテナにはモノポールアンテナを用いている。
前述の通り、DESPATCHのミッション期間は地球との距離に応じて3つのフェーズに分割され、各フェーズで異なるデータが送信される。 以降では、この3種類のデータを地上で受信する目的とそのフォーマットについて説明する。
ハウスキーピングデータ(モールス信号)
フェーズ1では、モールス信号によるハウスキーピングデータを地上で受信し、打ち上げ直後の宇宙機の健全性の確認を行う。 なお、このモールス信号の信号速度は6WPMである。
ハウスキーピングデータの送信はAS0, AS1, AS2, AS3という4つのセンテンスの繰り返しであり、各センテンスの間には10秒間のインターバル(電波を送信しない期間)が設けられている。 ハウスキーピングデータのフォーマットを以下のファイルに記載する。
- ハウスキーピングデータのフォーマット(.xls)
宇宙生成詩(独自符号)
フェーズ2では、宇宙生成詩の共同受信ミッションを行う。 この宇宙生成詩の受信は、宇宙機が地球から遠ざかるにつれて電波が弱くなり、信号がとぎれとぎれにしか聞こえない状況を想定している。 1つの地上局だけでは、このようなとぎれとぎれの信号を正しく受信することは困難であるため、 世界各地のアマチュア無線家が受信したデータ(ビット列)をARTSATプロジェクトの「ミッション運用センター」に報告していただく。 ミッション運用センターでは、世界中のアマチュア無線局から送られてきたデータの時刻同期をとり、1つの詩として復元する。 詩の復元方法としては下の図のように、各ビットごとデータが重複する部分については多数決によるエラー処理を行い、それ以外の部分ではORの処理を施すといったシンプルな手法を考えている。
宇宙生成詩の送信は、下の図に示すようなCP0 ~ CP7という8つのユニットの繰り返しであり、各ユニットはヘッダー5ビット、フッター5ビット、その間に挟まれた40ビットで構成され、
これらはBaudotコードによって符号化されている。
Baudotコードは5ビットで1文字を表現するため、各ユニットはBaudotコードで、ヘッダー1文字、フッター1文字、その間に挟まれた8文字の合計10文字で構成されている
(ただし、CP1のヘッダーとフッターに挟まれた40ビットについては主要なセンサーの生データが格納されており、この部分はBaudotコードには従わない)。
搭載センサーのデータから生成された宇宙生成詩にあたるのは、CP2, CP3, CP4, CP5である。
CP2, CP3では、宇宙機の温度を4文字の「カラーコード」に変換する。 このカラーコードは色を4文字で象徴したものであり、例えば「白」には "whit" が割り当てられる。 ちょうどサーモグラフィのように、宇宙機の温度が高いほど明るい色のカラーコードが受信される。 カラーコードから温度への変換は、以下の .xlsファイルを参照のこと。
また、CP4, CP5では、宇宙機の角速度および消費電流を4文字の「リズムフレーズ」に変換する。 リズムフレーズは、詩人フーゴ・バルの「Gadji beri bimba」のフレーズをカットアップしたものであり、 「I Zimbra」という曲の歌詞にも使用されている。 つまり、このリズムフレーズによって、宇宙機の回転や電流が奏でる一種の音響詩が受信される。 カラーコードから角速度または(消費電流)への変換は、以下の .xlsファイルを参照のこと。
なお、宇宙生成詩の信号速度は1bpsであり、符号化方式はマンチェスター符号に従う。
前述の通り1ユニットは50ビットであるから、1ユニット送信するのに必要な時間は50秒間である。
ユニットとユニットの間には10秒間のインターバルを設けているため、CP0~CP7全体を通して送信を行うのにかかる時間は、(8×(10+50)秒 =)8分間である。
アナログ温度情報(断続信号)
フェーズ3では、宇宙機の温度に応じて送信間隔が変化するような断続信号を地上で受信する。 宇宙機が遠く離れた後もこの信号の変化さえ捉えることができれば、その温度のおおよその値を知ることができる。 この断続信号は、下図に示すように周期が3秒間で一定で、バッテリーの温度(T = 0x00~0xFF)に応じてデューティ比が変化するような信号である。
受信の報告
DESPATCHの電波を受信するには
必要な設備
DESPATCHは430MHz帯のCWを送信する。 したがって、その電波を受信するためには430MHz帯CWモード対応の受信機が必要である。
また、以下に示すようなアジマスおよびエレベーション方向に回転が可能なアンテナを使用する。 DESPATCHは地球から急激に遠ざかるため、ミッションの終盤まで電波を受信するためには、受信ゲインの大きいアンテナを使用することが望ましい。 下図は、横軸に分離からの経過時間、縦軸に電波を受信するために必要な受信ゲイン(その次点で受信マージンがゼロとなる受信ゲイン)をとったものである。